全国部落史研究交流会
9回迎え研究深化へ
「解放新聞」(2003.09.15-2136)
東京に94人が参加
第9回全国部落史研究交流会を8月3、4日、東京都立台東商業高校でひらいた。同交流会は、各地の部落史研究所、研究会、サークルなどで活躍する研究者が年に1回集まり、毎年の研究テーマをもとにさらに研究を深め、交流しようというもので、今年で9回目、場所も東京に設定された。交流会には全国から94人が参加した。
秋定嘉和・全国部落史研究交流会運営委員会代表(大阪人権博物館館長)は、部落史研究とともにこの会も転換期に入っている、さらに研究に深みを出していこう、とよびかけた。
今年の前近代史のテーマは「旦那場・勧進権をめぐって――地域実態と歴史的性格」、近現代史は「府県融和運動の再検討」。一日目は、2分科会で、テーマにそった研究発表とそれをもとに論議を深めた。二日日の全体会では「戦国大名の職人編成とかわた」を笹本正治・信州大学教授がおこなった。
最後に、寺本伸明・同運営委員会事務局長が、大きく盛りあがった今年の交流会を総括し、来年ひらく和歌山での再会をよびかけた。
融和運動をめぐり
近現代史「府県融和運動の再検討」では、「地方融和団体と被差別部落民――20~30年代の神奈川県青和会の活動から」を大高俊一郎・一橋大学大学院博士課程、「三重県における融和政策・融和運動」を里川みどり・静岡大学教育学部教授により、2本の報告がおこなわれた。
大高報告は、水平社が結成されなかった地域で、融和団体の指導者、部落民がどのように差別に向きあい、差別撤廃にとりくんだのかを解明し、20年代から30年代の融和運動の意義と限界、連続と非連続を明らかにしようという観点から構成されたもの。
神奈川県青和会は25年に部落外の差別意識を部落問遭の原因と認識し、その除去を意図する啓蒙運動を方針とする県内初の融和団体で、半官半民的性格をもつ。青和会は部落外からの参加者が多く、青和会の秩序にもとづく模範的な差別への抗議が実際上とられ、部落民会員の被差別の苦悩とのズレが生じた。基本姿勢は、部落外には啓蒙、部落内には改善を訴えた。30年代の部落経済更正期には、被差別の苦しみを差別への抗議ではなく、向上エネルギーとして誘導し、自助努力(自力更生)を強調した。
里川報告は、三重県を研究対象としたのは戦闘的な水平社運動と、それとの対抗を意識した官制的な融和運動とのせめぎ合う場とし、水平運動切り崩しの試み▽「凋落」する水平運動への挑戦・対抗▽伊勢表生産組合・協同組合主義▽転向=水平運動と融和運動との接近・一体化という時代の流れにそくして検討するもの。
三重県の水平社は上田音一を中心に左派とされ、官制融和運動は水平社の分派となった『聖戦』グループなどとつながりをもち、融和事業による運動の切り崩し、恐慌下では三重県伊勢表生産協同組合連合会を結成し、「中堅青年」を育成した。当然にも、これは協同組合運動としての国家への献身を引き出すとともに、内部自覚運動の一環としても位置づけられた。この組織を受け継ぐものとして三重県厚生会がつくられた。
枠組みこえること
2本の朝告にたいして、融和運動の大きな流れとして反省・懺悔第一主義と経済更正運動の二つがある。経済更正運動は、全水に対抗する論議として山本政夫が提起した。
これはヨーロッパ型の生活協同組合運動だったが、32年以降ファシズムへの協力に転換していく。こうした大枠から見たとき、報告はどこが新しいのか、という従来の枠組みからの批判も出された。
戦争が日常的事態となるなかでの部落の置かれた位置、そこでの同化と異化の戦略、共産主義そのものが大衆的基盤を失うなかで運動の基軸をどこに置くのか、戦争そのものをどう考えるのかなどを、ダイナミックに骨づけながら、きめ細かい研究が必要ではないだろうか。この研究は、有事が日常になる、今日こそ必要なのだから。
部落史研究へ奨励金
12月31日までに応募を
部落史を研究する若手・中堅研究者を奨励しようと、第4回原田伴彦・部落史研究奨励金の募集が始まっている。締め切りは12月31日。
応募分野は部落史(周縁も含む)で、部落解放・人権研究所所定の用紙に、略歴▽研究業績目録▽研究テーマ▽推薦者(一人)の推薦文▽主要な業績の現物5点以内、を書くこと。また、応募条件として、奨励金を受けた翌年に、研究論文を執筆すること、が必要。
研究奨励金は15万円。選考結果の通知は来年の2月。
応募、問い合わせ先は、
〒556-0028 大阪市浪速区久保吉1-6-12 大阪人権センター内 部落解放・人権研究所総務部(松本)
電話 06・6568・0905/ファクシミリ 06・6568・0714
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